建設プロジェクトを実施する際、このような疑問や不安をお持ちになられてはいませんでしょうか?
「FIDICとは何か?」
「工事請負契約で気を付けるべきポイントはなにか?」
グローバルビジネスにおいて「自国文化のあたりまえ」を持ち込むことは非常に危険であり、紛争を防止するためにはアセアン・東南アジアの海外建設業者を活用する際には、十分な知識と経験が必要です。
今回は、海外建設プロジェクトで多く使用されている「FIDIC」について考えてみたいと思います。
FIDICとは?
FIDICとは、フランス語で、Fédération Internationale des Ingénieurs-Conseilsの略であり、英語ではInternational Federation of Consulting Engineers、(日:国際コンサルティング・エンジニア連盟)と訳されています。
特徴として、国際協力機構(JICA)、世界銀行(WB)、アジア開発銀行(ADB)などの国際融資機関の入札図書ひな型も組み込まれており、国際建設契約約款として数多くのプロジェクトに使用されています。
その他、各国の契約約款
発展途上国では、自国の契約約款が存在しない国も多く、日本・欧米諸国には各国の自国の文化や法律に合わせ、独自の契約約款もあります。
日本 | 民間建設工事標準請負契約約款、四会連合協定工事標準請負契約約款 |
英国 | ICE約款 |
米国 | FAR約款、AGC約款 |
マレーシア | PAM約款 |
特徴は?
海外の建設プロジェクトで、よく使用される理由は3つあります。
1.公平・中立
発注者と請負者との間で公平なリスク分担がされており、中立的、公平性が高い内容である点が評価されています。
2.普及性、利便性
様々な国で使用されることを目的に作られており、各国の法制度の違いなどにも柔軟に対応できる内容となっております。アセアン諸国では、FIDICを利用する慣習が浸透していることも、よく利用される理由です。
3.リスク管理、紛争解決
原則、リスクを最もうまく管理できる契約当事者が負うこととなっています。契約当事者が管理できないリスク(不可抗力など)は、原則として発注者が負うこととなっています。また、クレームや紛争の解決に関して、詳細なプロセスが規定されている点からリスク管理がしやすいことも大切なポイントです。
但し、この契約約款を運用するとなると、その契約管理、特に書類管理(ドキュメンテーション)がとても煩雑なため、このような契約になれた契約管理者が発注者側にいないと発注者がリスクを抱える事にもなります。
海外プロジェクトで使用される理由?
日本の契約書の多くは「本書に定めなき事項は 両者誠実に協議し、これを解決する」との「御守り」のような条項を入れ、「協議すれば解決できる信頼関係」が構築されていることを前提として作られてきました。つまり、紛争は起きない、問題が起きても関係者で協力して協議することが前提に構成されています。
しかし、建設プロジェクトでは、度重なる設計変更、長いプロジェクトの中で起きた建築関連法の改定、建設技術力が要求品質を満たさない、など次々と問題が起きます。これが発注者と請負者の紛争につながっていきます。
プロジェクトに携わる人々は、言語・宗教・文化的背景を異にする様々な国から様々な業種の人が集まり、コミュニケーションや相互理解に困難が生じやすく、「協議すれば解決できる信頼関係」を築くことはなかなか難しいです。
そのような背景から、様々な国で使用されることを目的に作られており、各国の法制度の違いなどにも柔軟に対応できる契約約款が重宝されています。
FIDICには「協議して解決する」といった概念はなく、物事を事細かく規定することにより双方の責任区分を明確にしており、紛争が起こることを前提に構成されています。
例えば変更、工期遅延、請求、工事完了等の手続きや期限に関する規定について、「相当な期間」、「すぐに」、「協議する」という文言を使用せず、さらに契約当事者の登場人物(代表者や監理者等)の責務についても明確に規定されており、相互理解の差をなくす作りになっています。
FIDICの注意事項は?
FIDICは、発注者と請負者は対等だと規定しています。この公平性は、発注者にとって時に味方であり、時に敵となります。
例えば、工事中の変更に対しては、請負者は工期延長及びそれに伴う追加請求の申請を所定の期間内に通知を行う事が認められています。ただし、その通知を怠った場合は、請負者はその権利を失ってしまいます。
よって、請負者は、発注者などから変更の指示を受けた場合、それに伴う工期の延長及び追加コストの通知を行ってきます。発注者側はその請求を受け入れるかどうかを速やかに判断しなければならず、所定の期間内に返答しない場合は、その変更要求は無効となるか、さらなる追加請求が出てくることになる可能性があります。
このように、すべての変更、請求等に対して、具体的に明確に規定されているため、請負者の責務と共に発注者の責務も明確で、双方にとって同様のリスクが発生すると言えます。
したがって、
発注者のリスクの負担を極力抑えるように、そのプロジェクトに合わせた、契約書における特記事項の記載が必要です。
契約約款を選ぶときのポイント
海外で行う建設事業の場合、発注者のリスクを最大限に抑えるという側面から国際契約約款の利用をおすすめします。
ただし、その理由は、コミュニケーションや相互理解に困難が生じやすいためです。裏をかえせば、「協議すれば解決できる信頼関係」であれば、FIDIC以外も使えると考えています。
契約約款を選ぶときのポイントは、海外プロジェクトでは国際契約約款をとひとくくりにせず、契約当事者に合わせ契約約款を選択することです。
たとえば:
1.日系の発注者が『日系の請負者』を指定する場合
もちろん発注者の考え方次第ですが、日本の契約約款をお勧めする場合もございます。理由は、同じ文化を持つ企業同士であれば「協議すれば解決できる信頼関係」を築ける可能性が有るからです。しかし、日本とは違う異国でのプロジェクトになりますので、海外での特殊事情を加味した特記事項を契約約款に盛り込むことが重要です。
2.日系の発注者が『非日系の請負者』を指定する場合
非日系の請負者に日本の契約約款の利用はリスクがあります。当事者のコミュニケーションや相互理解のむずかしい契約書は、発注者のリスクが大きいです。非日系の請負者に対しては、FIDIC約款を用い、特記事項を設けることにより発注者側のリスクを最大限に抑制することが大切です。
結論、まとめ
- 発注者と請負者との間で公平なリスク分担がされた契約約款である。
- クレームや紛争の解決に関して、詳細なプロセスが規定されている点からリスク管理がしやすい反面、その契約管理、特に書類管理が煩雑なため、発注者の負担も大きくなる。
- 「協議すれば解決できる信頼関係」かどうかを見極め、発注者のリスクを低減できるよう特記事項を検討する。
- 海外プロジェクトでは国際契約約款をとひとくくりにせず、契約当事者に合わせ契約約款を選択すること。
本記事はPlus PM Consultantがマレーシア現地で得た情報をもとに作成しています。
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